弊社は株式会社河合楽器製作所のグループ企業です
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コラム

作業者のための工場騒音対策で経費削減となる逆転の発想

工場の騒音対策と言えば、騒音源となる設備を囲んで作業者が聞こえる音量を下げるのが一般的で、カワイでも以前から設備が入る防音室を設置する提案をしてきました。ところがあるお客様から「作業者を騒音から守るシェルターのような防音室は作れないのか?その方が経費削減できるし効果も見込める」と、今までの私達の考え方とは逆転となる発想のご提案がありました。

【目次】

  1. 1)暮らしの音問題に向き合って
  2. 2)カワイの防音室、その特長とこだわり
  3. 3)工場の防音対策にも活かされる技術
  4. 4)工場騒音対策での逆転の発想(事例①)
  5. 5)工場騒音対策での逆転の発想(事例②)
  6. 6)さいごに

1)暮らしの音問題に向き合って

私たちはピアノメーカーである株式会社河合楽器製作所の防音音響部門です。ご近所様にピアノの音で迷惑がかからず、ピアノ演奏を思いっきり楽しんでいただくために、防音室という建物とは独立した部屋の製造販売をしています。ピアノの練習をするときは、同じ箇所を何回も繰り返して演奏をしたり、上手く弾けないで途中で間違えたりと、演奏者は一生懸命ですが、周りで聞いている方は、「また同じ場所で間違えた。」「あ~イライラする~」とご家族以外はなかなか親身になって聞き流してはくれません。ご家族内でも受験生の方がいらっしゃる場合や夜勤のお仕事をされている方がいらっしゃる場合などは、「なるべく小さな音にして~」など、気を遣わなければいけない場合も多々あるようです。そこでメーカーとして、ピアノを販売するだけではなく、その演奏空間も一緒にご提案させていただき、なお一層ピアノを楽しんでいただければと防音室を研究開発し販売することにいたしました。今から約40年前のことでございます。

2)カワイの防音室、その特長とこだわり

カワイの防音室の特長は、建物の部屋の中にもう一つの独立した部屋を作る仕様です。「ルームインルームタイプ」と私たちは呼んでいます。防音室と建物が接触しているのは床だけで、壁や天井は空気の隙間があるだけなのでこの仕様は防音性能が良いとされています。ちなみに別のピアノメーカーのY社さんも同じ「ルームインルームタイプ」仕様です。

ピアノメーカー以外の防音室は、直接、建物の床・壁・天井に防音材を固定する仕様が多いと思います。ではピアノメーカーが、なぜ防音性能の良い「ルームインルームタイプ」を採用しているかというと、ピアノから出る低い音から高い音までをバランスよく防音することで、お客様に安心してピアノ演奏を楽しんでいただきたいという気持ちが強いからだと思います。少なくとも私達はそのように考えています。

また、ピアノからはかなり大きな音が出ますが、防音室の中で演奏する人がうるさくないように、演奏空間においては適度な吸音が必要です。出来れば、ピアノ本来の音を狭い空間でも楽しめる音環境が理想です。「カワイさんの防音室は狭い部屋で窮屈(きゅうくつ)そうでお客様が可哀そう」という声も耳にしますが、私達も出来れば広い部屋でピアノを弾いていただきたいのです。広い部屋の方が特に低音部分の音がきれいに聞こえますし、高音とのバランスも良くなります。しかしながら、今まで私達が約40年販売してきた防音室の事例を集計しても、広いスペースを確保出来る方はわずかな方で、ほとんどの方がピアノ1台を何とか置けるスペースで演奏をしていらっしゃいます。その狭いスペースでも良い音で演奏できるようにするのが、我々ピアノメーカーの使命だと考えています。

3)工場の防音対策にも活かされる技術

ピアノを騒音の源(みなもと)として捉えるのは、楽器メーカーとして悲しいところもありますが、他人にとっては、まさに自分を不快にさせる根源。その騒音の源を、工場の場合は、設備から出る稼働音に置き換え、防音室を提案してまいりました。実は、カワイピアノの工場にも防音室がたくさん設置されています。ピアノには木製の部分がたくさんありますが、木材を刃物で削る時に、結構な騒音が発生します。金属に比べて木材を削る時は、刃物の回転数を上げるため、高音の騒音が発生します。他には、工場内で調律をする部屋が何部屋もあります。これにより、工場内の騒音はある一定の音量以下になっているため、耳栓をしないで良いとのことです。工場全体を占めるような大きな設備が無いため、騒音源を囲む方式で対応しています。

4)工場騒音対策での逆転の発想(事例①)

世の中の様々な産業の工場では、耳栓を常時着用しながら仕事をされている方がおられます。ある時、鉄製のパイプを製造している工場の方から、騒音を防止し、暑さを防ぐことの出来るオペレーター室は出来ないかとのお問合せがありました。早速、弊社担当が工場を訪問させていただいたところ、ピアノ工場とは全くスケールが違う大型の設備が並んでいました。また、工場の建屋の移動は敷地が広いため、車で行っているとのことでした。

その工場内の騒音は、耳栓をしないと耐えられないくらいの音で、訪問した時は冬でしたが、工場内は結構な温度がありました。これが夏であれば、どのくらいの暑さになるかは容易に想像が出来ました。

「ここに、オペレーター室を作りたい」「レイアウト変更の可能性もあるから部屋ごと移動できるように考えて欲しい」という設備担当者様のご要望でした。確かに、工場内の設備全体を囲んで騒音が漏れないようにするには、もうひとつ工場を立てなければいけないくらいの莫大な費用が発生するため、作業者を騒音から守ることができるオペレーター室が必要なのだということがわかりました。今まで小さな騒音源を何とか封じ込めようと考えてきた私達では出来ない逆転の発想で、その方が何桁もの経費削減になることがわかりました。その防音室は、工場内なので鋼板仕様の燃えにくい仕様にし、部屋の中はオペレーション用の機器のためにも冷暖房完備としました。(もっとも暖房は必要でないかもわかりませんが。)

防音室の設置工事が終わり、しばらくしてから設備担当者様に様子を伺ったところ、「みんなでその防音室を取り合っています」という言葉が、私たちにとって最も嬉しいお言葉でした。

5)工場騒音対策での逆転の発想(事例②)

もう一つの事例は、企業秘密のため詳しいことはご紹介できませんが、タービンのある工場で、こちらも設備を囲むには莫大な費用がかかるため、休憩室を兼ねた打合せ室としての防音室のご要望でした。騒音の値は、私達がこれまで行った防音工事のなかでも最高レベルの110dB(デシベル)で、ずっと継続して騒音が発生していました。人が立って4人くらいは入れるスペースで、こちらも鋼板仕様の防音室にしました。

工事中のエピソードとしては、騒音源のタービンを停止することが出来ないとのことでしたので、防音室の組立工事の間、作業者同士の会話が出来ず、筆談や身振り手振りでコミュニケーションを取りながら作業を行いました。細かい打合せは、作業場所から遠く離れた静かな場所で行い、また作業場所に戻るという、今までに行った防音工事の中でも特に印象に残る工事でした。しかしながら、その工場で働いている方たちは、常にこの環境で作業をされており、今までのご苦労を数日間でしたが身をもって体験することが出来ました。工事が完了し、工場の担当者の方と防音室内で普通に会話が出来たとき、打合せから1年以上かけてお役に立つことが出来た喜びと達成感を味わうことが出来ました。某、テレビ局の「プロジェクト〇〇」のエンディングテーマ曲が頭に流れました。

6)さいごに

このように、ピアノを弾く方が気兼ねなく音楽に没頭できるように開発した防音室が、さまざまな場面で皆様のお役に立つことが出来ています。工場の生産技術や環境管理を担当している方で、騒音区分を下げることを検討しておられる方がいらっしゃいましたら、ぜひ、カワイにご連絡いただければと思います。ホームページではご紹介できない工場騒音の施工事例がたくさんございます。限られた予算の中で、経費削減をしながら最大の成果を出すことが企業の宿命であることは、グループ内で生産工場を保有する私達は理解することが出来ると考えます。

皆様のお役に立つことが、私達の最大の喜びです。
ご連絡をお待ちしております。